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治療費5000万円の免疫細胞療法が保険適用に

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米国で白血病の治療薬として承認され、点滴1回5000万円という高額な薬価が話題になったCAR-T「キムリア」。
国内でも製造・販売が承認され、今月中に保険収載の見込みです。
オプジーボ、そしてキムリアと高額ながん治療薬がどんどん登場する背景について、リンパ球バンク代表の藤井真則氏にお話を聞きました。

実は自由診療よりはるかに高額な保険診療

オプジーボも、当初は5000万円と、がん治療薬の薬価は高騰の一途ですが……。

薬価の算定方法は大きくふたつに分けられます。
類似の先行している製品との比較で効果に応じて調整する方式と開発費、製造原価や販売費に所定の収益を乗せる原価積上方式です。

新薬の開発には莫大なコストがかかると聞きましたが……。

私が医薬品開発の世界に入った1980年代の半ば、新薬の開発は国ごとに実施され、国内での承認取得の費用が30億~50億円。
それが近年では当初からグローバル開発が前提で、費用も1兆円前後に上昇しています。
開発費の高騰が薬価に反映されているのです。

昔も今も新薬開発の基本は何をもって効果と考えるのか、副作用や安全性はどう評価するのか。
原理は変わらないのですが、とにかく作業や手続きは煩雑化しています。

どうして薬価はどんどん高くなっていくのでしょうか?

試験項目や書類が増え続けているのです。
また米国では医療保険は民間が運営しています。

どれだけ薬価が高くなっても、国がそれに歯止めをかけることはありません。
だから、新薬の承認はまず米国で行われ、一番高い薬価になり、米国での薬価を足がかりに、各国へ承認申請をかけていき、高くなるように誘導します。

オプジーボはルール変更してまで薬価が何度も引き下げられましたが……。

それでも製造事業者は赤字に転落しません。
薬価の調整を何度も繰り返しながら、落としどころを探り合っているわけです。

では、新薬の開発費が上がっていく理由は何でしょうか?

ひと言で書くとしたら、無駄な試験が多いということに尽きます。

承認申請に当たって製薬会社は膨大な試験を行い、隙間なくデータを集めます。
そこまでやる必要があるのかというくらい重箱の隅をつつくように、データを集めます。
がんの新薬であれば安全性の確認のためにマウスで実験を行いますが、近年のバイオ医薬品はヒトの細胞を使っています。
そもそもヒトの体内とは環境が異なるマウスの体内での実験に、どれだけの意味があるのかわかりません。

オプジーボは国内の製薬では体力的に開発出来なかったそうですが……。

新薬開発費用は上昇の一途で、この数十年、医薬品産業は合併による再編を繰り返してきました。
欧米のメガファーマでなければ開発費を負担出来ません。

仕組み上、開発費が上昇するほど、開発費に一定の割合で加算される収益も増えるのですから、どんなに開発費がかさんでもペイ出来ます。
だから、どんどん開発費をかけて、それが参入障壁にもなっているわけです。
過去に販売した製品の膨大な利益を、次の新薬開発に惜しみなく注ぎ込むことで、ビジネスが回っています。

リンパ球バンクが推進しているANK療法も、保険適用を目指されていますね。

ANK療法は患者さん本人のNK細胞を体外で強化して、再び戻すという免疫細胞療法です。
化学合成した医薬品ではありませんから、マウス実験などで安全性を確認する必要はないでしょう。

後は治験を行う環境として、安全性を落とさない範囲で、どこまで過剰な部分を省いていけるかだと思います。

承認取得のためにどのようなデータを集めるのでしょうか?

抗がん剤等が奏効しないか、奏効しても直ちに再発する悪性度の高いがんに対して、長期間、再発を抑え、良好なQOLを維持しながら長期生存が可能というデータです。
これなら治験費用も抑えることが出来ます。

ATL(成人T細胞白血病)では著効があり、論文も発表されていますが……。

ATLには標準治療が存在せず、新しい治療を求める声が根強いという背景があります。
また、それだけ悪性度の高いがんに対して著効例が複数あるのですから、有効性の証明としても強力です。

新薬の開発費が膨らむ原因に、承認申請はがんの部位ごとに行われるという仕組みがあります。
全ての部位に保険適応を拡大するには、莫大な費用がかかる治験を、数百回実施しても足りません。
NK細胞はがんの部位を問わず攻撃しますから、最初はATLで治験を行うにしても、その後の適応拡大はもっと柔軟に行うべきです。

リンパ球バンク株式会社
代表取締役 藤井真則

三菱商事バイオ医薬品部門にて2000社以上の欧米バイオベンチャーと接触。医薬品・診断薬・ワクチンなどの開発、エビデンスを構築して医薬品メーカーへライセンス販売する業務などに従事。既存の治療の限界を痛感し、「生還を目指す」細胞医療を推進する現職に就任。

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