【専門医インタビュー】小林賢次医院長|がんを狙い撃ち副作用が少ない「もうひとつの光免疫療法」とは?
がん克服の鍵は、いかにがん細胞だけを叩いて、正常細胞には影響を与えないかということです。
これによって効率よくがんを取り除き、副作用を抑えることが出来るからです。
東京都中央区にあるTGC東京がんクリニックが行っている光免疫療法は、
新たな手法でがんを狙い撃つことを実現した注目の治療です。
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標準治療だけでは進行がんを克服出来ないという現実
がんが日本人の死亡原因の1位になってから、かなりの年月が経過しました。
医学が日進月歩で進化する中、がんで亡くなる方は、割合から見れば徐々には減っているとはいえ、目立った改善の兆しはありません。
特にがんが進行して、再発や転移をした場合、生存率が一気に悪化してしまいます。
我が国には国民皆保険という制度があり、誰もが平等に優れた医療サービスを受けられます。
がんに対しては保険診療で標準治療が行われます。
標準治療は、エビデンスに基づく優れた治療ではありますが、
進行がんを完治させる上では限界があるといわざるを得ません。がんは浸潤し転移していきます。
目に見えるがんを全て取り除けても、がんは細胞の単位で散らばっており、そこから再発。転移する恐れがあるのです。
標準治療の柱は手術・放射線・抗がん剤です。手術と放射線は目に見えるがんしか取り除けません。
抗がん剤は、がん細胞が盛んに分裂する性質に着目し、分裂中の細胞を傷害します。
いいかえれば分裂していないがん細胞は生き残り、再発や転移を引き起こします。
再発や転移を繰り返すと、最終的には抗がん剤に頼らざるを得ません。
抗がん剤は、分裂中の正常細胞も巻き添えにし、患者は消耗していきます。
免疫細胞も大きなダメージを受け、がんを克服する上で大切な免疫を低下させてしまうのです。
正常細胞には影響を与えず、がん細胞だけを叩く
標準治療、特に抗がん剤には大きな副作用があります。がんという病気より治療に耐えられず、寿命を縮めてしまう患者は少なくありません。
がん克服の鍵は、いかにがん細胞を狙って叩けるかに尽きます。
そして、昨今、話題になっているのが、光(近赤外線)とそれに反応する色素を利用して、がんを狙い撃ちにする光免疫療法です。
米国で誕生した治療ですが、開発者が日本人であり、大手IT企業楽天グループが出資したことで、大きな話題になりました。
がん細胞は遺伝子の異常によって生まれた細胞です。
そのため、特異的に発現している分子があり、それを抗原として反応する抗体を利用し、色素をがん細胞に集めます。
そこに光を当てると、色素が反応し、がん細胞を内側から破壊するというわけです。
どんながん患者でも受けられる「もうひとつの光免疫療法」とは?
残念ながらこの光免疫療法は、希望する誰もが受けられるわけではありません。
国内では国立がん研究センター東病院(柏市)で治験が行われており、保険適用になるのは早くても数年後でしょう。
しかし、同様に光と薬剤を利用して、がん細胞を狙い撃つ「もうひとつの光免疫療法」があることをご存知でしょうか。
ドイツ発の治療で現在、世界10か国で行われています。国内ではTGC東京がんクリニックで受けることが出来ます。
では、両者の違いに触れながら、この治療の特長を説明していきましょう。
わかり易くするために現在、治験段階の光免疫療法を光免疫療法A、こちらを光免疫療法Bとします。
Aは、がん抗原に反応する抗体を利用して、がん細胞に色素を送り込みます。
しかし、がん細胞の性質は千差万別で、全てのがん細胞に共通する抗原はありません。
従って、全てのがん細胞に色素を送り込むことは不可能です。
これに対してBは、ドラッグデリバリーシステムという手法を使います。
リポソームというリン脂質で出来た微小なカプセルに薬剤を入れて、患者に投与します。
血管には酸素や栄養を細胞に運ぶために、隙間が空いています。
正常細胞の場合、この隙間は整然としていますが、がん細胞では乱れて大きな隙間になっています。
リポソームは丁度この隙間を通過し、がん細胞にのみ薬剤を送り込むのです。
また、Aでは色素が光に反応して発熱し、がん細胞を破壊します。
患者によっては痛みを感じる場合があり、また急激にがん細胞が破壊されていくことによる副作用への備えが不可欠です。
Bでは光に反応した薬剤が、活性酸素を発生させ、がん細胞を死滅させていくので、副作用は比較的穏やかです。
Aは現在、頭頚部がんと食道がんで治験が行われていますが、体の外側から光を当てやすいがんを得意としています。
いいかえれば深部のがんにはなかなか光が届かないという課題がありますが、
Bでは腹腔鏡や胸腔鏡を使って、深部のがんにも対応出来るという強みがあります。
局所治療であり、全身治療としての免疫療法でもある光免疫療法
がん治療の基本は、切れるがんは切ったほうがいいというように、がんを取り去ることです。
しかし、手術には様々なリスクが伴います。失われた部分は元に戻りません。
神経を傷つければ、様々な機能に障害が出る可能性があります。
頭頚部などでは機能はもちろん、容貌の変化という問題もあります。
原発部位に留まっているがんでも、手術そのものが難しいケースがあります。
その意味では光免疫療法は手術のデメリットを補完する新しい局所療法といえるでしょう。
難しい部位でも行えて、侵襲も少ない患者に優しい治療です。
また、光「免疫」療法というように全身治療としての免疫療法でもあります。
光に反応した薬剤によって発生した活性酸素が、がん細胞を破壊すると、
そのがん細胞の抗原によってNK細胞、T細胞、樹状細胞、マクロファージなどの各種免疫細胞の活性が上がり、
一斉にがん細胞を攻撃しはじめるのです。
<取材協力>
TGC東京がんクリニック
小林賢次 医院長
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