幕が開けば、役者は舞台に集中するしかありません

インタビュー

歌舞伎俳優の中村鷹之資さんは、名優、また舞踊の名手として知られた人間国宝・五世中村富十郎さんの長男。晩年の子であり、父親との早い別離を乗り越えて、精進を重ね、将来を嘱望されている。父親の十三回忌を迎える今年、追善となる勉強会「第八回翔之會」を10月6日に控えた鷹之資さんに、これまでの歌舞伎人生や富十郎さんのことを振り返っていただいた。

今まで一番大変だったご経験は?

私は2歳で初舞台を踏み、歌舞伎の道に進みましたが、11歳の時に父親(五世中村富十郎)が他界。父親が私を儲けたのが70歳の時なので、父親が早くにいなくなることは、私の背負った運命で避けられないことでした。父親と師匠を一度に亡くし、子供ながらにこれからどうやって生きていけばよいものか、途方に暮れました。歌舞伎界において父親がいないということは後ろ盾がいないということ。父親がいなくなった日を境に、天地が一変するのです。昨日まで親切だった方がその日から挨拶もしてくれないことがあるとは、父親から聞いていましたが、何が正しくて何がいけないのか、本当にわからなくなりました。そして、誰も庇ってくれません。それでも最善を尽くして、日々を過ごしていると、黙って見ていてくださる方もあり、少しずつ居場所が出来るようになりました。

多感な時期、歌舞伎から逃げたくなったことはありませんか?

歌舞伎が嫌になったことさえありました。父もそうだったようで海外に行ってしまってカウボーイにでもなろうかと思ったそうです。しかし、そんな気持ちを払拭したのは、芸の神様・六代目尾上菊五郎さんの存在だったそうです。今の私は、応援してくださるお客様の声に支えられて頑張ることが出来ています。どんなに気持ちが落ち込んでいても、身体が大変でも、足を運んでくださるお客様には関係のないこと。幕が開けば、役者は舞台に集中するしかありません。幕が上がる1秒前まで、どんなに心身がつらくても、それを感じさせないのがプロの仕事です。そして、一度幕が開けば、お客様の熱気が伝わり、自然と元気が湧いてきます。

コロナ禍で歌舞伎公演がなかった時期がありましたが……。

目の前に仕事があれば、それに必死になれますが、それがなくなるとどうしても将来のことなどで悶々とすることはありました。そこで、休みの月に父親の墓がある京都の大徳寺で修業させていただいたのですが、座禅の最中に浮かんでくるのは、ひたすら雑念。最後に管長にどうすればよいかとお尋ねしたら、何も考えるなと(笑)。歌舞伎のことで悩んでいるなら、私のすべきことは、目の前の歌舞伎に無心で取り組むこと、そして日々の生活全てが修行だと、やっと気がつきました。

お父様も、最期まで舞台に情熱的に取り組まれていましたね。

父親の最後の舞台は、他界する前々月でした。車椅子で楽屋入りするくらい具合は悪かったのですが、舞台の袖で出を待つ父は、全くの別人のように芝居に入っていったのを覚えています。余命など病気のことは知っていましたが、舞台を離れても、愚痴をこぼすことはありませんでした。そうそう、最後に入院した時、熱があるみたいと心配する母に「情熱」と答えていたのを覚えています(笑)。最期まで明るい人でした。

第八回 翔之會
出演 中村鷹之資・中村児太郎・市川九團次・市川猿弥・渡邊愛子
昼の季節と5年10月6日(ゴールド)
12時開演/18時開演(開場は45分前)
会場 浅草公会堂

オフィスタカヤ/天王寺屋友の會 TEL03-3536-3231 https://www.tennoujiya.com/
チケットWeb松竹 https://www1.ticket-web-shochiku.com/t/

立川立飛歌舞伎特別公演
2023年10月25日(水) ~ 10月28日(土)
開場12:00 開演13:00 1日1回公演
演目
義経千本桜 忠信編
市川猿翁 監修 三代猿之助四十八撰の内
序幕【伏見稲荷鳥居前】
佐藤忠信実は源九郎狐……中村鷹之資
大潔【川連法燕閣】
亀井六郎……中村鷹之資

オフィスタカヤ/天王寺屋友の會 TEL03-3536-3231 https://www.tennoujiya.com/
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