「頑張らなければ」「~しなければ」という気持ちが強く、人生を楽しめていませんでした
令和4年9月に真打に昇進した講談師・一龍斎貞弥さん。情景が目に浮かぶような力強い語り口で観客を魅了する一方、TV 番組やCM のナレーション、給湯器の「お風呂が沸きました」というお知らせの声など、暮らしの中で一度は聞いたことがあるたおやかな声も貞弥さんの持ち味だ。幅広く活躍中の貞弥さんだが実は昨年までステージ4の悪性リンパ腫を患っていたという。
──悪性リンパ腫を患っていたと聞きました。
令和2年の11月。腹痛で医師にかかり、なかなかよくならないので、何度か通ったのですが、やがて夜眠れないくらい悪化。痛みに耐えて、高座に上がり、トイレに駆け込んでは吐いていました。お腹の中にヘビがいるかのように動いて、ゴロゴロと雷のような音。CT検査を受けたら、今度は総合病院に行けと指示されました。そこでリンパ腫がお腹に一杯あることがわかったのです。そのうちの拳くらいのリンパ腫が小腸にあって、腸閉塞を起こしかけていました。真っ先に頭に浮かんだのは、生き死によりも既にいただいた仕事。代演や延期をお願いして、出来るだけ迷惑をかけないようにと。
──診断された時のお気持ちは?
ステージ4の悪性リンパ腫との診断でしたがそんなに落ち込むことはありませんでした。仕事のやりくりで大変でしたし、もし余命が幾らもないとしたら、家族に思いを伝えたり、事務的な意味での終活もしたりしなければいけない。そういう意味での現実で忙しくしていたし、病気という現実も受け入れていました。
──そこから治療が……。
リンパ腫で詰まっていた小腸を、30㎝くらい切除しました。人工肛門になる可能性があり、手術してみなければわかならいということで複雑な気持ちでしたが、無事に温存出来ました。手術後のリハビリではお腹に小玉スイカが入っているような感覚で歩いたのですが、最初はつらくても、徐々に長距離を歩けるようになって、人の身体の回復力を実感出来ました。手術の後は抗がん剤治療を受けました。治療を通じてそんなにつらい気持ちにはならなかったのですが、一度だけ涙が出たことがあります。治療が始まる前、初めて総合病院を受診した帰り、バームクーヘンを口にしたらおいしくて、もうひとつお替わり。その時、何故か涙が頬を伝って……。無意識に泣きたい気持ちがあったのでしょうね。後はどうにかなるという気持ちでした。運命ならなるようにしかなりません。
──現在は完全寛解されていますね。
仕事を休んで、抗がん剤を6回投与。途中、吐き気で食べられなくなり、起きていられないくらい調子が悪くなりましたが、令和3年の7月には完全寛解との診断でした。主治医の先生が、完治はしない病気だから、がんが悪さをしない状態の「寛解」を目指しましょうと仰ってくれたので、かえって気が楽になりました。身体によいものをとったり、ストレスを溜めないようにしたり、生活で色々と心がけています。そこでそれまで自分を一番後回しにして粗末にしていたことに気づきました。大切なものは全て持っていたことも。大きな病気になって、当たり前のことが当たり前ではないとわかりました。そして、それに気づいていなかったのです。「頑張らなければ」「~しなければ」という気持ちが強く、人生を楽しめていませんでした。
──読者の皆さんにメッセージを。
病気で苦しんでいる方、不安を感じている方、たくさんいらっしゃると思います。でも、ほんの少し考え方を変えて、不安を減らしてみたら、きっと身体が心についてきてくれるような気がします。私はそう信じているし、私も実際それを経験したのでお勧めの方法です。
Eテレ 6月25日(日)後2時45分~4時25分放送
第52回NHK講談大会
一龍斎貞弥さんが新真打紹介コーナーに出演。
(https://pid.nhk.or.jp/event/PPG0356726/index.html)
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