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余命3か月と宣告されても何年も生き続ける人がいるのはなぜか

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血液のがんで余命宣告され、仕事を辞めて、財産も処分した患者さんが、何年も生き続け、生活に支障が出て困っているという報道がありました。この余命という数字の意味についてリンパ球バンク代表取締役の藤井真則氏にお話をうかがいました。

──先日、血液のがんの患者が、医師から宣告された余命よりも、長く生きて、本来は喜ばしいことなのにトラブルになってしまったという報道がありましたが……。

医師から余命3か月といいわれ、仕事も財産も整理したのに、それから何年も生きており、いろいろお困りになっているという話でした。たまたま大きく報道されたケースですが、実際には相当数起こっているはずです。誤診だった可能性もありますが、どうしてこのようなことが起こるかといえば、余命という数字が大きな誤解を生んでいるからです。

──医療においては数字が物事を決める重要な要素になりますね。

保険診療は、患者本人でも医師でもなく国民全体から集めたお金、つまり他人のお金で行われるので、どうしてもルールとして客観的な基準が定められます。予算管理上の都合です。そのため、「数字」がひとり歩きする傾向が強く、必ずしも医学的、科学的には妥当ではない状況も生じます。

──では、余命も医学的、科学的に意味のある数字ではないのですか。

例えば「余命3か月」といわれた方が、平均して3か月で亡くなるわけではありません。状況は厳しいくらいの解釈が妥当ではないでしょうか。何十年も生き続ける可能性もありますし、反対にすぐに亡くなってしまうかもしれません。医師が、目の前の患者さんはこの先、どれくらい生きられるかを、的確に見抜いた上での数字ではないのです。

──そもそも余命とはどのようにして算出した数字なのですか?

よく使われるのが中央値です。がんの種類、進行の度合い等によって患者さんを大雑把に分類し、亡くなられるまでの日数を数えます。患者さんが100人であれば、50番目に亡くなった方の生存期間が、余命の中央値になります。実際の生存期間は患者さんごとに大きく異なることが多いのです。

──全体の平均の数字ではないのですね。

平均を出すには、全員が亡くなるまで追いかける必要があります。余命数か月といわれても、実際には何年も生き続けることはよくあります。調査に期間と費用がかかり、仮に何十年も調査を続けると、その間には患者さんを取り巻く環境が大きく変わってしまいます。

──データの意味は説明されずに、数字だけを宣告されるから、誤解を生むのですね。

統計処理された数字が絶対的なイメージで語られる傾向は問題です。ましてや余命を宣告された患者さんの多くは、実際に余命の通りに死ぬのだと思ってしまいます。しかし、余命通りに亡くなる方は、ほんの一部なのです。数値化された治験結果に基くエビデンスがあり、正しいとされて保険適応になった薬が、その後、承認取消になった例は幾らでもあります。数字を絶対視するのではなく、その数字を算出した意味や背景を理解することが大切です。

──では、余命を宣告されたら、どのように受け止めるべきでしょう?

受け入れ方は様々ですから、一概にいえないと思いますが、知人などには余命宣告通りに死ぬ義務は全くないと答えます。何より生きる道を見つけて欲しい。余命という数字を患者さんに伝えるのであれば、その意味を理解出来るように説明するのは最低限必要なことでしょう。

リンパ球バンク株式会社
代表取締役 藤井真則

三菱商事バイオ医薬品部門にて2000社以上の欧米バイオベンチャーと接触。医薬品・診断薬・ワクチンなどの開発、エビデンスを構築して医薬品メーカーへライセンス販売する業務などに従事。既存の治療の限界を痛感し、「生還を目指す」細胞医療を推進する現職に就任。

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