《検査から治療まで がんと遺伝子に関するQ&A》第二回 がん遺伝子検査で何がわかるのか?
国が推進するがんゲノム医療から、通販で提供される手軽なサービスまで、様々な遺伝子検査が行われています。遺伝子検査はどのようなことを行い、どのように活用出来るのか、がん遺伝子治療の専門医である濱元誠栄先生にQ&A形式で解説していただきました。
がんは遺伝子のトラブルで起こる病気だった!
がん遺伝子検査とはどのようなことをするのですか?
がんは、遺伝子の異常によって細胞分裂が正常に行われず、異常な細胞が作られ、それが積み重なっていった結果です。今世紀に入って、ヒトのゲノムは完全に解読され、どの遺伝子に問題があるとがんになるかが明らかになりました。そこで、遺伝子の異常を調べることで、がんの性質やリスクを知るのががん遺伝子検査です。
がん遺伝子検査はどのように役立てることが出来ますか?
がんは、画像診断で腫瘍を確認出来た時点で、がんと診断されます。しかし、がんは1個の細胞が分裂して増えていくので、目に見えなくても、がんのリスクは否定出来ません。遺伝子の異常がわかれば、将来、どのようながんになりやすいのかを知ることが出来ます。また、がん細胞が増えている時には、DNAが血中に流れ出すので、画像診断よりも早期の発見、あるいは再発や転移の予見に役立てることも可能です。
さらに、がんに関連する遺伝子を、網羅的に調べるがん遺伝子パネル検査は、患者さんひとりひとりに応じて効果的な治療を選択する手がかりになります。がん治療薬の主流になりつつある分子標的薬は、がん細胞の遺伝子の異常が原因で発現する蛋白質を目印に、がん細胞を効率よく叩きます。どんな遺伝子の異常が起きているかがわかれば、使えそうな分子標的薬を絞り込むことが出来るのです。
がんに関係する遺伝子があるのですか?
がんに関連する遺伝子として、まず細胞を増殖させるがん遺伝子があります。この遺伝子に異常があると、細胞を増殖させるスイッチが入ったままになり、本来は何回か分裂を繰り返すとアポトーシス(細胞死)するはずが、際限なく分裂を繰り返すようになります。肺がんのEGFR、乳がんや胃がんのHer2など10種類以上が発見されています。
もうひとつががん抑制遺伝子です。私たちの細胞には自らを修復するシステムが備わっており、異常な遺伝子を修復したり、修復が無理ならアポトーシスに誘導する遺伝子が存在します。最も知られているのは、遺伝子の守護神といわれるp53です。また、女優のアンジェリーナ・ジョリーが乳房を切除したのは、遺伝性乳がんの発症と関連の深いBRCAというがん抑制遺伝子の異常がわかったからです。
通販で出来る手軽な遺伝子検査があるようですが……。
簡易な遺伝子検査は、簡単にいえば血液の成分を調べて体質診断をするようなサービスです。将来、どんながんにかかりやすいか、確率が高いか低いか、その程度のことしかわからないので、がんの診断や治療には有効とはいえません。
国が推進しているがんゲノム医療について教えてください。
標準治療では部位別に治療のガイドラインが決まっています。これに対して遺伝子の異常という側面から患者さんひとりひとりに個別化医療を実現しようというのが、国が推進するがんゲノム医療です。具体的にはがん遺伝子パネル検査の結果によって効果が期待出来そうな分子標的薬を選択します。厚生労働省は近年中にこれを保険適応にする方針です。
がんゲノム医療でがん治療は変わっていくでしょうか?
がん遺伝子パネル検査によって効率よく分子標的薬を選択することは可能になりますが、問題は効果が期待出来そうな分子標的薬が見つかっても、それが保険適応でない場合があります。また、副作用への対応に関しても自費になります。本来は患者さんがどのような遺伝子の異常を起こしているかによって保険適応にすべきですが、これを実現するためには、臨床試験を経て承認を取得する仕組み自体を変えていく必要があるでしょう。
がん遺伝子検査は誰でも受けられますか?
がんゲノム医療の中核拠点病院などではがん遺伝子パネル検査を先進医療Bとして実施している場合があります。また、各地の大学病院などでも自由診療で行われています。対象は既にがんと診断されている患者さんです。
銀座みやこクリニックではがん細胞から血中に流れ出したDNAや、がん細胞を攻撃した白血球を分析することで、どんながんリスクがあるのかを予見することが出来ます。これはどなたでも受けていただくことが出来ます。
院長 濱元誠栄
Dr.Seiei Hamamoto
各種遺伝子検査の結果や個々の患者の状態に応じて遺伝子治療を行う。遺伝子治療の他、元外科医の見地からセカンドオピニオンや、がん難民の方向けの相談も行っている(要予約)。