
日本を代表する俳優でありながら、映画監督・画家としても多彩な才能を発揮する奥田瑛二さん。
在宅医療をテーマにした高橋伴明監督映画『痛くない死に方』に、終末期の患者を看取るベテランの在宅医・長野浩平の役で出演する。
この映画に出演したことで気付いたことや、自身の変化について、話を伺った。
今作にどのような思いで取り組まれましたか?
監督の高橋伴明さんとは2015年に『赤い玉、』という作品でご一緒しました。
壮年に差し掛かる男性の性がテーマです。
前作は「性」、今作が「死」。
生きるということにフォーカスした点では、同じ流れにある作品なのかな。監督とは友達で、同年代。
どこかで人生を共有しているという感覚があります。
台本が届いて、準備を進めるうちに、これは真剣に取り組まないと駄目だと思いました。ましてや主演の柄本佑君は義理の息子ですから……舐められちゃいけない(笑)。
僕が演じた長野浩平という医師は、原作の長尾和宏先生がモデル。
自分の人生観と、長尾先生が抱く患者さんへの思いを、役にどのように織り交ぜて演じるか、考えに考え抜いて役に向かいました。
終末期の理想はありますか?
誰にでも訪れる終末をどう迎えたいかということを、家族に対して言葉に出して伝える勇気が必要だなと思いました。
僕はいつも妻と具体的に話をしています。
戒名は自分で決めるとか、大袈裟な葬式はやらないでいいとか。
妻には「あなたは皆で集まるのが好きだから、お葬式は盛大にやったらいいじゃないか」とかね(笑)。
そういう話をするようになりました。死生観って人生の経験値が増えていく度に変わっていくんでしょうね。
最近、試練だと感じたことはありますか?
昨年、新型コロナウイルスの感染拡大で最初の緊急事態宣言が発令された時、決まっていた仕事のほとんどがキャンセルになったんです。
自分が監督する映画のクランクインも延期。
ライフスタイルが変わるくらいに感染拡大が進んでいったものですから、ある日、とんでもなく落ち込んでしまって、高橋監督に電話して泣いたこともありました。
9月に入っても落ち込んだままで、鏡を見ると、お前は誰だって思うくらい、顔つきまで変わっていました。
これでは俳優として駄目だと思い、明るく元気にいこうと心機一転。
気分をリセットしたんです。
お酒も控えるようにしました。
仕事が制限されることによって、演じたくても演じることが出来ない環境にいたから、俳優としてのアイデンティティが失われるような現象が起きていたんでしょうね。
今は立ち直ってもう大丈夫。
立ち直ったきっかけは?
やはり演じる現場に戻ったことで立ち直れました。
そして、家族や無言のうちにフォローしてくれる周囲のお陰だったと思います。
皆さんも、ちょっと目線を上げたら、周囲の方の温かさに気付けるんじゃないでしょうか。
世界規模の混乱を経験して、本当にやりたいことを再確認出来たし、それを実現するためには、健康が第一と、意識も変わりました。
それもこれもこの映画と逆境のお陰。そして、有難いことに「パパ、身体に気をつけて」と家族がうるさいんです(笑)。

2021年2月20日公開
シネスイッチ銀座ほか
監督・脚本:高橋伴明
原作・医療監修:長尾和宏『痛い在宅医』『痛くない死に方』ブックマン社
キャスト・柄本佑、坂井真紀、余貴美子、大谷直子、宇崎竜童、奥田瑛二
公式WEBサイト http://itakunaishinikata.com/
劇場情報 https://itakunaishinikata.com/#theater
《あらすじ》
在宅医療に従事する医師の河田仁(柄本佑)は、ある時、末期の肺がん患者である井上敏夫(下元史朗)を担当する。
敏夫の娘の智美(坂井真紀)が、「痛くない在宅医」を選択したからだ。しかし、智美夫婦の献身的な看病もむなしく、敏夫は苦しみ続けて亡くなってしまう。
「『痛くない在宅医』を選んだはずなのに、結局苦しませる結果になってしまった。
入院したまま最期を迎えさせたほうがよかったのか、病院から自宅に連れ戻した自分が父を殺したことになるのか」と、智美は自分を責める。
河田は、患者に対し、もっと別に出来ることが沢山あったのではないかと悔恨の念に苛まれる。
河田は在宅医の先輩である長野浩平(奥田瑛二)の下で在宅医としてあるべき姿を模索するようになる。
大病院の専門医と在宅医の決定的な違いは何か、長野から学んでゆく。
そして2年後、末期の肺がん患者である本多彰(宇崎竜童)を担当することになる。
果たして、「痛くない死に方」は実践出来るのか……。