未知の分野だからこそ過去と決別して夢中になれた気がします

ボクシングのリングでは元WBA女子世界ライトミニマム級制覇という輝かしい実績を残した古川夢乃歌選手が、「山本ユノカ」とリングネームを変え、キックボクシングに転向した。

ボクシングとキックボクシングのふたつの競技で王者を目指す彼女には、立ち直ることが出来ないくらい大きな敗北があったという。

今月は所属するジムでの練習の合間に話を伺った。

今までで一番大きな挫折は何でしょうか?

ボクサー時代は勝ち続けて、世界のベルトを手にし、防衛にも成功しました。

ずっと勝ち続ける前提で、階級を上げ、二階級制覇を目指して、トレーナーと一緒に練習に打ち込みました。

そして、夢を賭けた世界タイトルマッチのために渡ったアルゼンチンで、大きな敗北を味わいます。

相手は、手数が多いし、パンチも重い。試合の最中に勝てないと思い知らされました。

試合はフルマークの判定で私の負け。全てにおいて私の方が劣っていました。

本当に悔しくて悔しくて、リングの上で人目も憚らず泣いたのを覚えています。

涙が止まりませんでした。

試合が終わって、通訳の方が現地で評判のステーキ屋さんに連れて行ってくれたんですが、私は口の中を切っているから、痛くて肉の味なんて全くわからない。

どうしてステーキなのよと腹立たしく思ってしまうくらい、すさんだ気持ちでいました。

試合に勝っていたら、おいしいディナーだったと思います。

帰りの飛行機ではトレーナーもマネージャーもずっと無言。

負けた悔しさと申し訳ないという気持ちを抱えたままのフライトでした。

あの重苦しい空気は、今でも忘れられません。

キックボクシングを始めるまで何もしていない時期があったとか?

その敗北が本当にショックで、ジムに顔を出せない状態になってしまいました。

練習をしないから身体はどんどん細くなっていきます。

海外にひとり旅に出て、貯金は遣い果たしてしまいました。

自暴自棄だったかも知れません。プロですからボクシングを止めてしまえば、収入も当然減ります。

学生じゃないしボクシングをしないなら働かないといけません。

就職したらまだ人生をやり直せるかなと、夢を追っていた生活が一変して、現実を考えさせられるようになったんです。

アルバイトも始めてみました。

でも、何かが物足りなくて寂しい。そんな時、アルバイト先の会社が、何か競技を始めるなら応援しますよと背中を押してくれました。

それで以前から興味を持っていたキックボクシングを始めてみたんです。

ボクシングの経験は役に立ちましたか?

パンチだけでも通用するかなと、正直、甘く見ていました。

ところが、それは全くの勘違いだと思い知らされます。

練習で軽く蹴られただけでも、パンチなんか全然出せない。

ボクシングの基本姿勢は前に重心があって、身体の使い方から全然違うんです。

ゼロからのスタートになりましたが、未知の分野だからこそ過去と決別して夢中になれた気がします。

今の夢や目標は何ですか?

キックボクシングを始めて間もないし、ランキングにすら入っていない段階ですが……始めたからにはベルトを巻きたい。

今は新型コロナウイルスの流行で興行が頻繁にはないので、自粛期間中は苦手なフィジカルトレーニングに取り組みました。

重心が下がって、安定感が出たように思います。

基礎体力が向上したので、暗くなりがちな自粛でも収穫はあったかなと、前向きに考えるようにしています。

読者の皆さんにメッセージをお願いします。

負けてしまった、恥ずかしい……マイナス思考の時は新しいことや楽しいことなんて何も思いつきませんでした。

いい経験をした、夢中になれたと、よかったことに目を向けるようになって、新しい夢を見つけることが出来ました。

プラス思考で解釈すると、ボクシングで負けて何も出来なかった1年は、疲れた心身を休めて、将来の夢を見つけるための準備期間。

そして、これまで支えてくれた方たちの存在の有難さに気づかせてもらうための時間でした。

誰でも生きていればいろいろなことがあります。

つらいことがあってもそれを前向きになるきっかけにしていただけたらと思います。

山本 ユノカ

日本の女子キックボクサー。

Kick Box所属 

https://kickbox.jp/

身長157cm。日本体育大学卒業。ボクシング時代はワタナベボクシングジムに所属し、古川夢乃歌の名前で第4代OPBF女子東洋太平洋フライ級王座および第4代WBA女子世界ライトミニマム級王座に就いた。 

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