
「もしかしたら自分はEDかも知れない」
「EDの治療法について知りたい」
この記事はそんな方に向けて書かれています。
EDとは「Erectile Dyfunction」の略で勃起障害という意味です。
男性の性機能障害のひとつで、不妊の原因にもなります。
EDはとても身近な疾患ですので、この記事を通してEDに関する知識を深めてもえたらと思います。
EDとは?
定義
日本性機能学会のED診療ガイドラインによりますとEDの定義は以下のようです。
「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、維持できない状態が持続または再発すること」
有病率
日本人の40〜70代の男性2417名を調査した研究において「満足な性行為を行うのに十分な勃起を得て、持続できますか?」という問いに対して34.5%(618名)が「たまに」または「全くない」と回答しました。
中年男性以上では多くの方がEDを自覚していることになります。
また、EDを対象にした全ての研究では、年齢と共に有病率が上昇するとしています。
分類
EDは器質性、心因性、そしてその両方を併せ持った混合性に分類できます。
器質性
高血圧や糖尿病などの疾患によって、物理的に勃起が阻害されている状態のことです。
心因性
ストレスや不安、うつ病などの心理的要因によって勃起障害が起きている状態です。
次項ではさらに詳しく原因を解説していきます。
EDの原因
加齢
上述しましたが、加齢はEDの最も大きなリスクファクターといえます。
日本と同様、世界各国の研究でも加齢とEDの大きな相関関係が確認されています。
糖尿病
糖尿病患者の35〜90%はEDを発症すると言われています。
糖尿病患者はEDの発症時期も非糖尿病患者に比べて早くなるといわれています。
糖尿病によるEDの発症機序としては血管障害と神経障害がメインです。
高血糖状態が長く続くと細い血管では血流が悪くなり、太い血管では動脈硬化が引き起こされ、これらによって血行障害となります。
神経障害は、血管の血流が悪くなり神経細胞への栄養の供給が低下することで引き起こされます。
心血管疾患および高血圧
高血圧患者はEDを合併することが多く、逆にED患者が高血圧を合併する頻度も高いそうです。
世界中で高血圧患者のEDが報告されています。
EDと高血圧の合併頻度が高い理由はいくつかあります。
1つ目は勃起機能と血圧の恒常性の維持に必要な、神経や血行動態、生理活性物質などのバランスが歪になることで、EDと高血圧が同時に引き起こされているというものです。
2つ目は高血圧によって虚血性心疾患(心臓に十分に血液が行き渡ってない状態。心筋梗塞や狭心症など)などを発症し、続発性にEDを発症しているというものです。
虚血性心疾患とそれに続発するEDのメカニズムは同じで、どこの血管が詰まるかの違いによって症状が異なります。
心臓を栄養する冠動脈が詰まれば虚血性心疾患に、陰茎を栄養する陰茎動脈が詰まればEDとなります。
血管に詰まりを起こさせるのは、プラークといった脂肪や細胞の死骸の塊です。
つまり虚血性心疾患を起こすようなプラークが冠動脈に付着している人は、陰茎動脈にもプラークが付着している可能性が高いということです。
心臓の筋肉に血液を運ぶ冠動脈に疾患を持つ患者はEDを高頻度で発症することが知られています。また、明らかな冠動脈疾患のないED患者に心臓に負荷をかける心電図を用いて検査すると陽性所見が現れる可能性があります。
慢性腎臓病
慢性腎臓病とは何らかの原因で腎臓が障害され、その状態が3ヶ月以上持続していることをいいます。
慢性腎臓病に罹患している患者の7割にEDが発症しているという研究も存在します。
慢性腎臓病によってEDを発症する理由は多くあります。
血流障害、神経障害などからテストステロンの低下や高プロラクチン血症などのホルモン異常、内因性NO合成阻害物質(NOは血管拡張作用があり、陰茎への血液を流入させるのに関与している)の蓄積、腎性貧血(貧血により陰茎は虚血に陥る)、薬剤性などがあります。
神経疾患
勃起は多発性硬化症、脳卒中、てんかん、パーキンソン病などでも併発することが知られています。
勃起は神経によって制御されているためです。
また、転換に対する薬物や神経疾患に多く処方される抗うつ薬もEDを引き起こすことがあります。
薬剤
上述でも述べましたが、薬剤が原因でED発症することがあります。
EDを発症する薬をいくつか紹介していきます。
降圧薬
降圧薬とは高血圧に対する薬のことです。
利尿薬やβ遮断薬、Ca拮抗薬は勃起機能に悪影響を及ぼす報告が多く存在します。
ただ高血圧自体がEDのリスクファクターであるので、高血圧患者に対する薬物療法開始前に勃起機能のチェックを行うことが重要です。
抗うつ薬
抗うつ薬は勃起機能を障害することは先ほども述べました。
日本性機能学会のED診療ガイドラインによりますと、代表的な抗うつ薬であるセロトニン再取り込み阻害薬であるパロキセチンでは65%、セロトニン・ノルアドレナリンサイト取り込み阻害薬であるベンラファキシンで75%でEDが報告されています。
また、抗うつ薬でEDが発症したこと自覚すると服薬を規定通りに行うことができなくなる人が多いようです。
5α還元酵素阻害薬
5α還元酵素阻害薬は前立腺肥大症の治療薬として使用される他、男性型脱毛症(AGA)の治療薬としても使用されます。
AGAの治療で代表的な薬剤であるフィナステリドやデュタステリドはEDを引き起こす可能性があるという報告が存在します。
しかしプラセボなのでは?という意見もあり、詳しい因果関係はわかっていませんが覚えておいても損はなさそうです。
上述してきた原因は全て器質性EDの原因でした。これから紹介するのが心因性EDの原因です。
心理的要素および精神疾患
うつ病や統合失調症といった精神疾患はEDを引き起こすことがわかっていますが、日常生活の些細なストレスが原因でも引き起こされます。
例えば会社でのことや夫婦関係などがそうです。
また、そのような現実真因などだけではなく幼少期のトラウマなどの深層心因でもEDは発症します。
EDとうつ症状と心血管疾患の3つは併発しやすいことがわかっており、ED患者を外来で診察する時は鬱状と心血管疾患を考慮に入れた診察が推奨されています。
この他にも肥満や運動不足、喫煙などもEDの原因となります。
EDの治療法
EDの治療ではまず以下のことを行います。
- 治癒可能なEDを診断し治療
- 生活習慣の改善、リスクファクターの排除
- 患者とパートナーのカウンセリング、心理療法
そのうえで患者の希望を聞き、治療法を選択します。
ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬
日本ではシルデナフィル(バイアグラ)、バルデナフィル(レビトラ)、タダラフィル(シアリス)の3つのPDE5阻害薬の使用が認められています。
3つとも国内外で有効性・安全性が十分に認められており、治療法の第一選択となります。
3種類の薬剤の有用性は同等ですので患者の選択に任せることになっています。
PDE5阻害薬は心因性EDに対しても強く推奨されています。
ただし、硝酸薬との併用は禁忌となっています。
それでは3つの薬剤を簡単に紹介していきます。
シルデナフィル(バイアグラ)
世界で初めて臨床で使用されたPDE5阻害薬です。
内服後30〜60分ほどで効果を発揮し、作用時間は4〜5時間程度です。
価格は25mgで1300円程度です。
バルデナフィル(レビトラ)
バルデナフィルはシルデナフィルの次に誕生したPDE5阻害薬です。
水に溶けやすく即効性があり、内服後30分で効果を発揮し、作用時間は10mgで5〜6時間です。
価格は10mgで1500円程度です。
タダラフィル(シリアス)
タダラフィルはED治療薬にシェア数は世界一です。
じわじわと長時間効果を発揮するのが特徴です。
内服後30分から効果を発揮し、作用時間は10mgで20〜24時間です。
価格は10mgで1700円程度です。
PDE5阻害薬の副作用
PDE5阻害薬には頭痛や火照り消化不良など軽度で一過性の副作用がどの薬にも共通して存在します。
一方でNAION(非動脈炎性前部虚血性視神経炎)、突発性難聴、メラノーマなどの重篤な副作用を発症する可能性もあります。
PDE5阻害薬が使用できない場合
ED治療の第一選択はPDE5阻害薬ですが、そのうち約30%に無効例、硝酸薬やNO薬内服中で使用できない症例が存在します。
その場合以下のような方法を選択することがあります。
服薬指導
PDE5阻害薬の処方には適切な手順が必要です。
内服後には十分な性的刺激が必要ですし、食後何時間で投与するかが薬剤ごとに異なっていることを認識するのも重要です。
シルデナフィルなら食後2時間、バルデナフィルなら食後30分以降に内服しなければ効果が半減します。
これらを患者に理解してもらうための服薬指導を行います。
陰圧式勃起補助具
陰圧式勃起補助具は陰茎に陰圧をかけて血液を陰茎内に吸引し、ゴムバンドを巻いて滞留させて擬似的な勃起状態を作り出します。
可能ならばPDE5阻害薬を併用することもできます。
使用時間は30分以内が目安となっています。
かつては何の規制もありませんでしたが、現在は販売するのに厚生労働省の認可が必要となりました。
陰茎海綿体内自己注射療法
陰茎海綿体自己注射療法はプロスタグランジンE1(PGE1)という物質を陰茎に注射する治療法です。
日本ではPDE5阻害薬処方243名のうち無効であった64名のED症例に対してPDE1の注射を行ったところ91%に良好な勃起を認めたという研究もあります。
神経性EDでは勃起機能を改善する可能性が高いですが、糖尿病やメタボリックシンドロームでは効果が認められにくいと報告されています。
陰茎海綿体内自己注射療法は日本では未承認で、行うためには日本性機能学会多施設共同研究への参加ならびに所属施設の倫理委員会の承認が条件となるようです。
偽造PDE5阻害薬
PDE5阻害薬には多くの偽造薬品が存在します。
医師処方以外のウェブサイトから入手したPDE5阻害薬の成分分析に関する研究では24〜77%が偽造薬であったと判明しているとED診療ガイドラインに記載がありました。
偽造薬品の中には薬効成分を含まないばかりか、健康被害をもたらす物質が混入していることもあります。
病院にいって薬を処方してもらうのには羞恥心を伴いますが、このような偽造薬品には手を出さないようにするため治療ではしっかりと医師に診断してもらうようにしましょう。
まとめ
EDかもと思ったら→EDには様々な原因があります。原因の特定と治療のため、早めに病院を訪れるようにしましょう。
EDの治療法→PDE5阻害薬が第一選択です。PDE5阻害薬が使用できない場合もありますが、代替の治療も存在します。
いかがでしたか?
以上EDの原因と治療法について紹介していただきました。
EDは冒頭でも述べたとおり不妊の原因になります。
自分1人の問題と捉えずパートナーや主治医としっかり話し合うことが重要です。
その時、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。